札幌医科大学 消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座

消化管チーム(上部消化管)

主な疾患

胃がん・食道がん


胃がん
胃がんはおよそ男性の9人に1人、女性の18人に1人が罹患する病気です。胃がんの主な原因はヘリコバクターピロリ菌の感染、塩分の摂り過ぎ、喫煙、野菜の摂取不足などです。
日本人のヘリコバクターピロリ菌の感染率は、中高年で高く、若年層では近年低下傾向にあります。
胃がんは、早い段階では症状が少ないですが、代表的な症状は、胃の痛み・不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振などがあります。

出展:国立がん研究センターがん情報サービス

食道がん
食道は、のどと胃をつなぐ長さ約25cmの管で、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。食道がんは40歳代後半以降に増える傾向で、男性に多い病気です。発生には喫煙や飲酒が原因とされています。食事によりしみたり、つかえるような症状がみられ、徐々に食事が摂れなくなり体重が減ります。

検査

胃食道造影検査
バリウムなどの造影剤を使用して胃の状態を確認する検査です。途中で発泡剤を飲んで胃をふくらませることで、胃の変形やふくらみの悪さを観察し、がんの有無を判定します。

内視鏡検査(胃カメラ)
細長いカメラを口や鼻から挿入し、胃の内部を直接見て、がんの広がりと深さを調べる検査です。組織を一部採取することで、病理診断もできます。
またカメラの先端に超音波装置の付いた超音波内視鏡検査をすることで通常のカメラでは見えない胃壁の内部や裏側も調べることができます。

CT検査
胃や全身臓器の断面像を描出する検査で、胃がんの進行度や転移を調べるために行います。
またこの検査を基に胃周囲の立体画像を作り手術の詳細な準備を行うことで、より安全な手術に結び付けています。

PET-CT
がん細胞がブドウ糖を多く取り込む性質を利用した検査です。食道がんは頸やお腹など広い範囲のリンパ節に転移することがあります。リンパ節や他の臓器への転移について、全身の検査が可能です。

診療内容

進行食道がんに対する術前多剤併用化学療法 

日本での切除可能StageⅡ/Ⅲ食道がんに対する標準治療は,シスプラチン+5-FU (FP)による術前化学療法後の食道切除術です。しかし術前化学療法の奏効率は38%に留まり、特に進行した症例での成績が良くありませんでした。そこで当施設では更なる治療成績の向上を目指し、より強力な抗腫瘍効果を有するDocetaxel/CDGP/ 5-FU(DNF)3剤併用療法を術前に施行し、良好な成績が得られています。

食道がんに対する低侵襲性の追求

食道がんでは従来の開胸・開腹手術に代わり、胸腔鏡による胸部操作、腹腔鏡を用いた腹部操作で手術を行っています。さらに腹臥位(腹ばい)にすることにより肺や心臓が重力によって腹側に移動し、広く安定した術野確保が可能となります。これらにより、良視野の確保による出血量の減少や、術後肺炎の減少などの有用性があります。

進行胃がんに対する多剤併用化学療法

スキルス胃癌などの難治性胃癌や切除不能胃癌・再発癌に対して、内科と共同で3剤併用のDocetaxel/CDDP/S-1 (DCS療法)を施行しています。33%の症例で切除不能転移巣が消失し、手術施行可能となっています。切除例の全生存期間中央値は48か月と良好でした。 さらなる治療効果と忍容性の向上を目指した切除不能胃癌に対するDocetaxel/Oxaliplatin/S-1 (DOS療法)による臨床試験を展開中です。また、StageIIIの症例に対する術前補助化学療法としてDCS療法を応用しています。

胃がんに対する低侵襲性の追求 

胃がんに対する手術では腹腔鏡下胃切除術(幽門側胃切除術、胃全摘術、幽門保存胃切除術、噴門側胃切除術)を積極的に導入しており、患者さんの負担軽減に努めています。

胃がんに対するロボット支援腹腔鏡下胃切除術

胃癌に対するロボット支援腹腔鏡下胃切除術は、2018年より最新のロボット手術機器da Vinci Xi surgical systemに対応し、施設基準を満たして保険診療も可能となりました。従来の腹腔鏡手術以上に緻密な操作が可能となり、根治性と安全性をさらに追及しています。対応術式も幽門側胃切除から、噴門側胃切除術、胃全摘術まで拡大しています。

腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)

GISTや低悪性度腫瘍では、正常な胃の切除範囲を最小限に留めるために、内視鏡医と連携してLECSを施行しています。これにより内腔側から病変の位置を観察しながら、最小限かつ取り残しのない切除が可能です。病変の局在や発育形式によっては単孔式手術も可能です。

高度肥満症に対する肥満外科治療

糖尿病や高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの肥満合併症を有する高度肥満症に対する、胃縮小手術と術前後の栄養療法を組み合わせた肥満外科治療プログラムは、施設基準を満たして保険診療が可能です。本治療法は減量のみならず長期生命予後の改善につながることが示され、日本を含む世界中で急速に広まりつつあります。当科の症例でも、良好な減量と、肥満合併症の著しい改善を達成することができました。

診療実績

食道がん

食道がん手術はほぼ全症例に対して胸腔鏡を使用しております。
進行食道がんにおいても術前化学療法と手術による集学的なアプローチにより良好な成績が得られております。
また、根治的化学放射線療法後のがん遺残・再発症例に対する救済手術(サルベージ手術)にも対応しています。

胃がん

2018年以降は約90%の胃がん症例に腹腔鏡下手術を施行しました。
なかでもロボット支援下手術の割合が増加しつつあります。
胃がん切除例の5年生存率はステージI: 91%、II: 77%、III:64%でした。
はじめに切除不能と診断された進行胃がん症例においても、
多剤併用化学療法により約1/3の症例で治癒切除が可能となり、
化学療法単独と比較して良好な長期成績が得られました。

臨床試験

  1. 胃上部癌、食道胃接合部癌に対する術後QOL向上に寄与する胃切除術式、再建法に関する研究
  2. Her2陰性切除不能進行・再発胃癌に対するS-1Docetaxel, Oxaliplatin(DOS)併用療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験
  3. 臨床病期 IB/Ⅱ/Ⅲ (T4を除く)食道癌に対するDocetaxel/CDGP/
    5-FU(DNF)
    併用療法による術前補助化学療法のFeasibility試験
  4. 腹腔鏡を用いた食道・胃がん手術時の吻合部消化管血流に関する臨床研究
  5. 鏡視下食道・胃がん手術におけるICGを用いた局在マーキングの有用性についての臨床研究
  6. 高度肥満症例における腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の有用性と安全性に関する研究
  7. StageⅢ治癒切除胃癌症例におけるTS-1術後補助化学療法の予後予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究
  8. StageⅢの治癒切除胃癌に対する術後補助化学療法としてのTS-1+Docetaxel併用療法とTS-1単独療法のランダム化比較第相試験
  9. ハイリスク消化管間質腫瘍(GIST)に対する完全切除後の治療に関する研究
  10. ダ・ヴィンチ手術システムを用いたロボット支援腹腔鏡下胃癌手術の臨床応用に関する研究
  11. CTL反応を惹起する胃がん組織中ネオアンチゲンの探索研究
  12. 食道癌手術後の予後因子に関する後ろ向き観察研究
  13. 4型進行胃癌に対する術後または周術期補助化学療法としての全身・腹腔内併用化学療法と全身化学療法の無作為化比較第Ⅲ相試験

担当医

Copyright(C) DEPARTMENT OF SURGERY, SURGICAL ONCOLOGY AND SCIENCE, SAPPORO MEDICAL UNIVERSITY All Rights Reserved.