札幌医科大学 消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座

消化管チーム(下部消化管)

主な対象疾患

下部消化管・肛門疾患
大腸がん(結腸がん、直腸がん)、炎症性腸疾患、
急性虫垂炎、腸閉塞、痔疾患 など

腹壁疾患
鼡径ヘルニア、大腿ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア

 大腸がん

大腸は結腸と直腸に分けられます。

結腸がんと直腸がんを合わせた大腸がんは罹患数(一定期間にその病気にかかる人の数)が全てのがんの中で一番多く、特に女性では死亡者数も一番多いです。

2021年 部位別がん死亡数

男性

53,278人

大腸

28,080人

27,196人

女性

大腸

24,338人

22,934人

膵臓

19,254人

男女計

76,212人

大腸

52,418人

41,624人

出典:国立がん研究センターがん情報サービス 「がん登録/統計」

2020年 部位別がん死亡数

男性

53,247人

27,771人

大腸

27,718人

女性

大腸

24,070人

22,338人

膵臓

18,797人

男女計

75,585人

大腸

51,788人

42,319人

出典:国立がん研究センターがん情報サービス 「がん登録/統計」

2019年 部位別がん罹患数

男性

前立腺

94,748人

大腸

87,872人

85,325人

女性

乳房

97,142人

大腸

67,753人

42,221人

男女計

大腸

155,625人

126,548人

124,319人

出典:国立がん研究センターがん情報サービス 「がん登録/統計」

2018年 部位別がん罹患数

男性

前立腺

92,021人

86,905人

大腸

86,414人

女性

乳房

93,858人

大腸

65,840人

40,777人

男女計

大腸

152,254人

122,823人

126,008人

出典:国立がん研究センターがん情報サービス 「がん登録/統計」

検査

大腸カメラ

カメラをお尻の穴から入れて、大腸全体や小腸の一部を観察し、ポリープやがん、炎症などを診断します。組織の一部をとって調べたり(生検)、早期がんに対しては内視鏡での治療も可能です。

CT

CTは大腸や周辺のリンパ節、血管の状態を見るために行います。他の部位への転移がないかについても調べます。画像を3Dで再構成することにより、手術のシミュレーションを行ったり、手術時のナビゲーションとして利用することができます。

MRI

MRIは直腸がんにおいて、周囲の臓器との関連を確認するために行います。治療方針を決める際に非常に重要な検査です。

PET-CT

がん細胞がブドウ糖を多く取り込む性質を利用した検査です。手術前に他の部位への転移や他のがんがないかなどを確認するために行います。

診療内容

大腸がん手術

腹腔鏡手術

大腸がん症例の約98%にロボット手術や腹腔鏡手術を行っています。
高画質な画像を見ることで、微細解剖(神経・膜・血管)の認識が飛躍的に向上します。
とくに直腸がんでは、根治性・機能温存に関わるTME(直腸間膜を完全切除しがんを包み込むように切除する方法)の質が向上します。

直腸がんに対するロボット支援下手術

ロボット支援下手術はより精緻な操作が可能で、通常の腹腔鏡では高難度な骨盤深部においても、高いTME完遂率と機能温存(排便機能・排尿機能・性機能)を得ることができます。

当科は北日本で唯一の認定指導施設として全国から多数の医師が研修に訪れています。

NIRを用いた安全確実な手術への取り組み

近赤外線(Near-infrared, NIR)光で蛍光が励起されるインドシアニングリーン(ICG)を用いた手術を行っています。確実なリンパ節郭清のためリンパの流れや、安全な吻合のために腸管血流を評価しています。

結腸癌に対するロボット支援下結腸切除術

結腸癌を対象に、ロボット支援下結腸切除術の安全性に関する臨床試験を行っています。

TaTME (Transanal Total Mesorectal Excision )

TaTME (Transanal Total Mesorectal Excision )

TaTMEは経肛門的に直腸を切離し、肛門側から直腸剥離を行う手術です。
特に、通常の腹腔鏡手術ではTMEが困難な男性・肥満・超低位の直腸がんに対する根治性と機能温存・肛門温存率の向上が期待されます。

TAMIS (Transanal Minimally Invasive Surgery)

全くおなかにキズをつけない究極の低侵襲手術で、直腸良性腫瘍や早期癌に対する経肛門的な局所切除法です。確実な水平・垂直断端陰性を保つことができます。高い一括切除率で、病変の全生検など診断的治療にも応用されます。術後の排便障害や疼痛はありません。

単孔式腹腔鏡手術

「手術をするなら、小さなキズの方がいい」という思いは当然のことです。腹腔鏡手術と同等の根治性を保ち、手術創を臍に集約した単孔式手術では、きわめて優れた整容性と術後疼痛軽減が期待されます。一時的なストーマが必要な症例では創部の創を用いて造設しています。

腹腔鏡下側方郭清

腹腔鏡下側方郭清

腹腔鏡下またはロボット支援下で側方郭清を施行しています。拡大視効果により出血量の減少、機能温存、根治性の向上が期待されます。

高度進行大腸がんの治療成績向上のための取り組み

最新の集学的治療

最新の集学的治療

当科では手術治療のみではなく、術前や術後の化学療法や放射線治療などを含めた包括的治療を行っており、治癒切除率や生存率の向上に取り組んでいます。

拡大手術

拡大手術

当科では高度進行がんや再発がんに対して、根治を目指し他臓器合併切除を含めた拡大手術も行っています。

直腸がん術後の排便障害に対する取り組み

大腸がんの中でも肛門に近い直腸がんでは手術後に便失禁や頻便などの排便障害を来すことがあります。
当科では直腸切除後の排便障害に対する取り組みも積極的に行っています。

LARS スコア(直腸切除後主観的排便評価)

当科では直腸切除後排便障害の評価に国際的に使用を推奨されているLARSスコアの日本語版を作成しました。

(Akizuki et al. World J Surg 2018(42):2660-7)

このLARSスコアを使用して術後排便障害の評価と治療を行っています。

直腸肛門内圧検査

直腸肛門内圧検査

括約筋温存手術では術後1年間は定期的に肛門機能検査を行い、骨盤底筋および肛門括約筋リハビリテーションを導入しています。

診療実績

大腸がん手術数と低侵襲手術率

2015年11月に竹政教授が着任されて以来、大腸がんの手術数が増加しています。特に直腸がん手術は全手術の2/3を占め、北海道内で最多です。

2022年の大腸がん手術における腹腔鏡下手術およびロボット支援下手術をあわせた低侵襲手術の割合は98%です。

大腸がんの予後:病期分類別の生存曲線

2011年1月~2016年の当科の手術症例における大腸がん切除例の5年全生存率はステージIで99%、IIで97%、IIIで86%と全国データと比較しても良好な成績です。
当科では、手術だけでなく化学療法、放射線治療など含めた集学的治療を積極的に行っています。集学的治療により、再発率の低下だけでなく、転移・再発時の治療の選択肢も増え、予後はさらに改善する可能性が期待されます。

臨床試験

  1. StageⅡ,Ⅲ直腸がんに対する腹腔鏡手術におけるCRMとTME評価に関する前向きRegistry研究(PRODUCT試験)
  2. 「StageⅡ,Ⅲ直腸がんに対する腹腔鏡手術におけるCRMとTME評価に関する前向きRegistry研究」対象症例の長期予後に関する研究
  3. 吸収性組織補強材付自動縫合器を用いた直腸切除術の多施設共同前向き観察研究
  4. 「吸収性組織補強材付自動縫合器を用いた直腸切除術の多施設共同前向き観察研究」の付随研究 「吸収性組織補強材付自動縫合器を用いた直腸切除術の多施設共同前向き観察研究」対象症例の長期経過に関する研究
  5. 進行直腸癌に対するロボット支援下直腸切除術の腫瘍学的妥当性に関する多施設共同,前向きregistry研究(VITRUVIANO study)
  6. 血液循環腫瘍DNA陰性の高リスクStage II及び低リスクStage III結腸癌治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのCAPOX療法と手術単独を比較するランダム化第III相比較試験(VEGA trial)
  7. 血中循環腫瘍DNA陽性の治癒切除後結腸・直腸がん患者を対象としたFTD/TPI療法とプラセボとを比較する無作為化二重盲検第III相試験(ALTAIR study)
  8. 腹腔鏡下直腸癌手術後の縫合不全予防に対する近赤外光観察を用いた腸管血流評価の有効性に関するランダム化比較試験(EssentiAL試験)
  9. 経肛門的全直腸間膜切除術(TaTME)後の合併症、生活の質、機能転機に関する前向き臨床研究
  10. 近赤外光を用いた大腸癌の局在およびドレナージリンパ流確認に関する有効性の研究
  11. 直腸がんに対する経肛門的低侵襲手術(TAMIS:Trans-anal Minimally Invasive Surgery)の安全性と有効性の検討
  12. 一時的回腸瘻造設時における癒着防止吸収性バリア巻き付け法の癒着防止効果の検討
  13. 人工知能を用いた直腸癌MRI画像診断支援技術開発に関する研究
  14. 直腸癌・肛門癌に対する鏡視下腹会陰式直腸切断術2-team approachに関する前向き観察研究
  15. 術前3DCT検査における静脈血管の造影タイミングを最適化するための前向き研究
  16. 腹腔鏡手術のポート刺入部の腹壁閉鎖時におけるVersaOne Fascial Closure システムを使用した前向き観察研究
  17. 鼡径ヘルニアに対するロボット支援下鼡径ヘルニア根治術の有用性に関する検討
  18. 大腸がん幹細胞標的免疫療法の安全性と有効性の評価 -進行大腸がんを対象としたがん幹細胞標的免疫療法の多施設共同第1/2相臨床試験-
  19. 直腸がん術後の主観的排便QoL指標としての日本語版LARS score(jpLARSs)の評価に関する多施設共同前向き観察研究
  20. 大腸癌手術後の消化管機能異常に対する術前を含めた周術期TJ-100内服の安全性と有用性の評価
  21. 回腸瘻閉鎖創の手術部位感染に対する局所陰圧閉鎖療法の有効性評価
  22. 大腸癌におけるOSNA法(プール法)によるリンパ節転移検査の妥当性
  23. 局所進行直腸癌患者に対する術前化学療法の有効性および安全性の検討
  24. 根治的外科治療可能の結腸・直腸癌を対象としたレジストリ研究(GALAXY trial)
  25. 切除可能結腸癌に対するロボット支援下結腸切除術の安全性に関する検討 ‐多施設共同,前向き,ヒストリカルコントロール,feasibility 研究‐
  26. 後期高齢者低位直腸癌(高リスクpT1、低リスクpT2)に対する準標準的治療を評価する多施設共同前向き観察研究
  27. RAS遺伝子(KRAS/NRAS遺伝子)野生型で化学療法未治療の切除不能進行再発大腸癌患者に対するmFOLFOX6+ベバシズマブ併用療法とmFOLFOX6+パニツムマブ併用療法の有効性及び安全性を比較する第Ⅲ相無作為化比較試験(PARADIGM試験)
  28. StageⅢ結腸癌治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのmFOLFOX6療法またはXELOX療法における5-FU系抗がん剤およびオキサリプラチンの至適投与期間に関するランダム化第Ⅲ相比較臨床試験
  29. 再発危険因子を有するStageⅡ大腸癌に対するUFT/LV療法の臨床的有用性に関する研究
  30. StageⅢb大腸癌患者治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのUFT/Leucovorin療法とTS-1/Oxaliplatin療法のランダム化比較第Ⅲ相試験
  31. StageII/IIIおよびCROSS1/2の閉塞性大腸癌に対するBridge to Surgery (BTS) 大腸ステントの⻑期予後に関する 多施設共同無作為化臨床試験(COBRA trial)
  32. 「下部進行直腸癌に対する腹腔鏡下手術の意義」研究登録症例における追加調査
  33. 腸閉塞全国集計:腹腔鏡手術と癒着防止フィルムは腸閉塞を減少させたか?
  34. 大腸癌研究会プロジェクト研究「虫垂癌の臨床病理学的研究」
  35. 人工知能を用いた骨盤内手術シミュレーションソフトウェアの開発に関する研究
  36. 直腸がん術後遠隔転移ハイリスク症例の層別化に向けたtumor(トゥモール) deposit(デポジット)の術前MRI画像診断に関する後ろ向き観察研究
  37. 直腸癌術後排便障害の病態解明を目指した後向き観察研究
  38. Stage II, III下部直腸癌の手術治療に関する前向き観察研究
  39. 結腸癌に対するCircular stapler を用いた体腔内吻合に関する前向き介入研究
  40. 大動脈周囲リンパ節転移に関する研究
  41. 直腸切除術前バイオフィードバック療法施行例の術後排便障害に関する前向き観察研究
  42. 潰瘍性大腸炎における腹腔鏡手術と開腹手術の臨床成績の検討

担当医

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